【たまに更新】日本刀のお手入れ・修復 豆知識 PickUP版
過去に笹が書いたブログ記事から
日本刀のお手入れ・修復に関するメモだけピックアップしてみました。
参考にどうぞ。
当カテゴリは新しい情報が入り次第、更新していく予定です。
★2019年5月27日★
白錆についての記述を修正しました。(赤文字表記)
■お手入れ・修復情報を頂いた状況と時期
1.2013年11月9日~10日記載分
⇒破損している刀装および刀身の修復を鞘師さんへ依頼した際に伺ったお話
2.2013年12月14日~15日記載分
⇒1で依頼した修復が終わり、引き取りに行った際に伺った修復手法
3.2014年12月13日~14日記載分
⇒柄巻きと鮫皮の修復を鞘師さんへ依頼した際に伺ったお話
4.2015年3月14日~15日記載分
⇒刀剣鑑賞のベテランの方から伺ったお話
5.2017年1月3日
⇒2016年11月5日に開催した御刀お手入れ講習会で伺ったお話
⇒同講話会の内容を踏まえ、上記1~4で記載した文章を一部修正
99.居合刀の刀身が折れる事象への留意事項
⇒2012年3月7日記載分
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☆柄巻の目釘穴の補修
目釘穴が大きくなってしまっている場合は、穴を小さくすることはできない。
補修は穴より大きい四角型の木を埋め込んでから、穴を開け直す。
(2013年11月9日~10日記載分)
☆柄
刀が作られたのは享保。
柄に巻かれている鮫皮と糸は当時から使われているもので、かなり老けている。
強度が使用に耐えられなくなると鮫皮はツブがポロポロ抜け落ちるし、
柄糸は解れてくる。
(2013年12月14日~15日記載分)
★柄木(つかぎ 刀の茎が直接触れる部分。朴の木で作られています)
柄木は使えるので新調しない。
長年の使用で刀の茎(なかご)に触れている部分は潰れて
隙間が空いているので、潰れた部分を埋め合わせて調整する。
この刀(モリさん)の柄木は経木(キョウギ)と和紙で補強されており、
和紙に文字と印鑑の跡がある。
日本が印鑑を使い始めたのは明治時代なので、
柄木を補強したのは明治以降と思われる。
(2014年12月13日~14日記載分)
☆柄巻の糸
柄頭と縁金と、柄巻糸の高さが均等ではない。
糸を巻いたのは職人ではなく、おそらく素人が巻いたのだろう。
その証拠に、柄頭に巻きつけた糸の結び目の位置が逆になっている。
(通常は刀の表よりも裏のほうが結び目が柄頭近くに来る。糸の組み直しは
おそらく戦後に行われたもの)
(2013年11月9日~10日記載分)
★柄糸
一見、納戸色(強い緑みの青)のように見えるが、作った当初は紺色だった。
長年の使用によって、色褪せて今のような緑色になったのだろう。
(2014年12月13日~14日記載分)
★鮫皮(柄木を包み、柄に耐久性を持たせます)
鮫皮にもそれぞれ、白っぽかったり、黄色味がかっていたりと
様々な色味がある。
大刀・小刀の柄を作る場合は、両方とも同じ色味の皮を選ぶようにしている。
新しい鮫皮は白いものだが、
柄木と鮫皮の間にキョウギを噛ませることで、色味に変化をつけることができる。
皮の白さを強調したければ、白いキョウギを挟むことで、
より白さが映えるようになる。
白さを抑えたいまたは飴色がからせるためには、
飴色がかったキョウギを挟むことで皮の白さを抑えることができる。
(2014年12月13日~14日記載分)
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★目貫
目貫の意匠には大きく分けて、動物と植物に分けられるが、
掟として、動物の目貫は、顔や視線が剣先に向かうように付ける。
植物は、成長点が柄頭の方向(=根っこは剣先の方向)で付ける。
この(モリさん)の目貫は親ガニと子ガニで一対の構成となっている。
親子の構成となっている目貫は、親が先に剣先へ向かうように付けるのが掟。
現状、子ガニが先に剣先へ向かうようになっているので
目貫の位置が、差しオモテと差しウラで逆になっている。
柄巻きも逆になっていることも考慮すると、
柄巻きに関する知識があまりない者が柄を巻いたのだと思う。
動物系の目貫で、顔や視線が剣先に向いていない付け方を、「逃げ目貫」と呼ぶ。
動物系の目貫は目の位置に柄巻き糸が来ないようにしている。
顔に柄巻き糸が触れたとしても、目だけは必ず出すようにする。
(2014年12月13日~14日記載分)
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☆赤錆と黒錆の関係
赤錆の層の下に黒錆の層がある。
(2013年11月9日~10日記載分)
☆茎(なかご)の赤錆の取り除き方(応急処置)
赤錆は刀を朽ちさせてしまうので注意が必要。発生したら取り除く必要がある。
茎に刀油を塗ってしばらくすると赤錆が浮いてくるので、それをふき取る。
それを何度も繰り返すことで赤錆を取ることが出来る。
油は刀身の手入れをした時に手に着いたものを塗る程度で十分。
(2013年11月9日~10日記載分)
ある程度、赤錆を拭っていると落ち着いた黒錆になるので、
油を塗り、赤錆の発生を防ぐ。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
☆茎の黒錆の取り除き方
黒錆は刀を朽ちさせることはないので発生しても大丈夫。
軽い黒錆は刀身に打粉を打って拭うことを繰り返すと取れることもある。
(モリさんには打粉を打って黒錆を取り除こうとした跡があるとのことでした)
(2013年11月9日~10日記載分)
☆刀身の黒錆
黒錆は朽ちる害がないので残しておいても構わないが、
取りたいのであれば研ぎ師に頼むのが一番と思う。
(2013年12月14日~15日記載分)
★刀身の白錆
錆には種類があり、
白錆は初期の腐食で、浸食した部分が表面に白く表れる。
錆の進行度としては、黒錆ほどでないものの状態は安定しており、手入れによって更なる進行は抑制できる。
腐食の進行によって錆の状態は異なり、
赤錆は腐食が急速に進んでいる状態のもので、ボロボロと剥がれる。
黒錆は腐食が進み、状態が安定したもので、固着しており、剥がれることはない。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載、2019年5月27日更新)
★錆取りで使ってはいけない素材
水サンドペーパー、コンパウンド、ピカールなどで
擦って剥がすことは刀の傷をつけ、
錆びの進行を更に深めることになるので
錆を深くしたくない場合は絶対してはいけない。
油を塗ってネルで拭き取る応急処置をおこない、
必要あれば刀職者へ相談すること。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
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☆鍔と鎺(はばき)
茎と茎櫃穴の間にある隙間を責め金を作って埋める。
(元から縦割れがあった)鎺は交換。素赤で作り直す。
(2013年11月9日~10日記載分)
☆鍔の責め金
茎櫃穴(なかごひつあな)で責め金を差し込む部分をかたどって銅を入れた。
(2013年12月14日~15日記載分)
☆鍔
鍔の形が丸く表面に同心円が刻まれているが、これは会津藩で作られる鍔の特徴。
(2013年12月14日~15日記載分)
☆鎺(はばき)
素赤(銅)で白銀師に作ってもらった。
刀を鞘に納める時、鯉口が鍔に触れるくらいまで深々と納めないで欲しい。
鍔と接する側にある鎺のやすり目は、鞘の鯉口付近の木を削ることになってしまうため。
刀を使わない時は、鯉口まで深々と刀が入らないように気をつけて欲しい。
(2013年12月14日~15日記載分)
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☆栗形と鞘の鯉口
水牛の角で作り直した。
鯉口付近の鞘の内側も漆を塗りたかったが、この鞘が長年使われている間に
刀油が染み込んでしまって漆をはじいてしまう。
漆を塗っても刀を抜き差ししている間に取れてしまうので、塗らなかった。
(2013年12月14日~15日記載分)
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☆鞘
刀が作られた後に作り直されたもので、新々刀の時代と思う。
新々刀の鞘は、鐺(こじり)に膨らみがあるのが特徴。
この鞘の塗りは手数が込んでいて面白いと思う。
この鞘には黒と朱の、伸縮性の異なる2つの漆が使われている。
最初に鞘全体に一方の漆を塗り、乾くまで待つ。
塗りが乾いたら、鞘の表面と裏面に斜めにやすりを入れ、鞘と塗った漆を削り落とす。
削り落とされて色がなくなった部分に、残りの漆を塗る。
漆を塗る工程が終わると、鞘全体に黒と朱の紗模様が出来る
また、漆の伸縮性の違いから鞘の表と裏面に凹凸が出来上がる。
登城差しは黒の露塗りと決まっているから、
この鞘は平常差しとして外歩きで使うための替え鞘として作られたのかもしれない。
クワガタの金属は、月と太陽を模している。
(2013年12月14日~15日記載分)
★鞘のお手入れ方法
刀身を長い間入れておくと、
刀身に着いた古い油や汗が鞘の内側にも着いてしまう他、
鞘自体の木屑で刀身を傷つけてしまうので、年に一度程度の手入れが必要。
長い真鍮の針金状のモノを用意して、
先端に、油を軽く染み込ませたティッシュを巻き付ける。
↓
ティッシュが外れないように針金に固定してから中を掃除する。
力いっぱい擦らず、サラッと軽く擦る。
↓
木屑やゴミを掻き出す
↓
汚れが取れたら乾いたティッシュに取り換え、
2~3回程度、乾拭きする。
↓
刀を抜いた状態で、鯉口を上にして立てかけ、
油を蒸発させるように何日か置いておく。
鯉口はティッシュ等で覆い、外部からのゴミが入らないよう防ぐ。
★長い間、鑑賞したり稽古で使わない場合
朴ノ木で休め鞘(白鞘)を作り、そこに刀身を納めることが望ましい。
鎺~切先までの刀身のみ入れ替えられる白鞘を用意する方法もある。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
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★刀身へ打ち粉を打つ頻度
鑑賞や手入れの際に、刀身へ打ち粉を打つと思うが、
(頻繁に)始終打ち粉を打つことを30年も40年もやっていると、
刀身の刃と地鉄の境が白くぼやけてきてしまい、地鉄が刃のように白くなってしまう。
打ち粉を打つのは半年に一度くらいでよい。
(2014年12月13日~14日記載分)
☆日本刀と防虫剤(ナフタリン)の関係
衣類を虫から守る防虫剤に含まれているナフタリン。
このナフタリンは刀の刀身に塗った刀油を気化させる働きを持つようです。
実質、塗った刀油が刀身からなくなってしまうことになりますので、
保管状況によっては湿度が高かったり空気循環が十分でない場合、
刀を錆びさせる原因となる可能性があります。
防虫剤を刀の近くに置かないようご注意ください。
(2015年3月14日~15日記載分)
★居合用の刀と美術鑑賞用の刀の管理の違い
刀身の表面が粗ければ粗いほど錆は発生しやすい。
刀身の研ぎの精度は、居合用のほうがもともと粗く、
また、稽古中に鞘ズレやヒケ等の傷も更に生じるため、
美術用にくらべて錆びやすい状態にある。
錆びから刀身を守るために、
稽古後は一度ティッシュで刀身についた油を拭い、
それからまた油を塗るようにする。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
★刀身に塗る油の量
刀身に薄い皮膜を作る感覚で塗る。
油も塗り過ぎると、錆の原因になるので、
塗り過ぎた場合、ティッシュで軽く拭き取ること。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
★刀身に塗った油はどのくらい持つのか
温度や湿度に大幅な変動がない環境であれば、一年くらいで塗り直すこと。
長年そのまま保管しておくと、油自体が酸化してしまい、
酸化した油が固着することで、
刀身に油染みを生じさせる原因になるので注意すること。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
★刀の手入れで使うティッシュの選び方
パルプ100%で、蛍光塗料や保湿剤を使っていない
ティッシュであれば刀の手入れに使って大丈夫。
ティッシュを購入する際は、
箱の後ろに記載してある成分表を読めば成分がわかる。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
★刀を鑑賞した後の手入れで使う素材
美術刀を鑑賞する際の手順として、
打ち粉を打って油を拭う
↓
鑑賞する
↓
打ち粉を打って拭いて油を塗る
というやり方が望ましいが、何回も打ち粉を打つと
刀身の刃と地鉄の境が白くぼやけてきてしまい、
地鉄が刃のように白くなってしまう。
打ち粉を打つ代わりにカメラレンズを拭くための布で油を拭う方法がある。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
★刀の手入れで使うネルの布
手入れで使う前に一度洗濯すること。
普通の衣料と一緒に洗う程度でよい。
★刀の手入れの際の力加減
思いっきり力を込めて刀身を拭かず、やさしくサラッと拭く。
天然成分だけで出来ているティッシュであれば、
刀の手入れに使って大丈夫。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
★刀を手入れする際に適した温度や湿度
基本的に、温度や湿度が一定に保たれた環境で
手入れをすることが望ましい。
寒い所から急に暖かい場所へ移動したり
乾燥したところから加湿器のある場所へ移動すると、
水分が刀身に発生し錆の原因になる。
変化する環境へ刀を移動する場合は、
移動先の温度や湿度に徐々に刀を合せるため、
ドライヤーで刀身を温めるなど、水分を発生させないような工夫が必要。
(2016年11月5日分、2017年1月3日記載)
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★居合刀の刀身が折れる事象への留意事項
居合刀は、鋳型に溶かした鉄や合金を流し込み硬めて作る鋳物です。
どんなに製造工程を精巧なものにしても、
鉄を叩いて硬く締めて作る真剣に比べて、素材の面で強度や柔軟性は劣ります。
つまり、居合刀は真剣よりも比較的折れやすい性質を持っていることになります。
その居合刀の強度や柔軟性をより良く高める為には、
鋳型に流し込む際の、鉄や合金の混ざり具合が均一であるかどうかが、
居合刀の出来具合を大きく左右するのではないかと考えています。
今回折れてしまった部分の断面を見ると、
鉄や合金の混ざり具合が均一ではなく、目視できる程の粗が見受けられました。
この居合刀を購入した7~8年前の製品検査の精度や
出荷可能と判断する基準についてわかりかねますが、
そのことを差し置いたとしても持ち主の方は、
運悪く、あまり出来のいいものではない居合刀を購入してしまったことになります。
翌週、持ち主の方は購入したお店を介して居合刀の製造メーカーに問い合わせた結果、
無料で新しい刀身と交換してもらえることになりました。
しかし、新しく交換された居合刀は、折れた原因や現在実施している安全対策、
今後の予防策などの安全面に言及することなく持ち主の方へ送り返されてきました。
居合刀の性質、製品検査の精度を熟慮されていて、
購入者が最も必要とする情報をメーカーさんは持っているはずです。
広告戦略による対外活動よりも、一購入者に対してもっと真摯に、
もっと積極的に安全対策に関する情報展開がなされてもいいのではないでしょうか。
この、原因解析結果や今後の対策を一切伝えてこない無言の返送は、
購入者の信頼を得る機会を、むざむざ切り捨てているように見えてなりません。
このブログを読まれている方で、
居合刀はもちろん刀を扱われている方がいらっしゃいましたら、
「居合刀(または刀)だって、突然折れることがある」と
頭の片隅にでも残して頂けたら幸いです。
あとは、定期的に刀を分解して各部品を点検するだけでも、
怪我や破損の予防に繋がると思いますので、よかったらお試し下さい。
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